「先生、それは愛だと思います。」完

「え、まさか、失くしたとか……?」
「いやいや、それは無い」
「冗談やめてよね……、もっとちゃんと奥見た?」

私は祥太郎君の近くに寄り、同じようにしゃがんで机の中を確認する。
すると、すぐに私の参考書が見つかった。

「なんだ、あるじゃ……」
「お前さ、やっぱりバカだよね」

ふと顔をあげると、すぐ目の前に彼の顔があった。そうだ、こんなこと、つい最近もあった。
わざと参考書が見つからないふりをして私を呼びよせたんだということをその時悟り、私はすぐに彼から離れようとした。
しかし、祥太郎君は私の腕を掴み、強引に胸に引き寄せた。
手元を照らしていたスマホが、床にごとんと音を立てて落ちた。画面を下にして落ちたそれは、光を極限に遮られたが、私達の足元を照らすのには十分だった。
すぐに離れたいのに、彼の力の強さと、自分よりずっと速い彼の鼓動に驚いて、私は硬直してしまった。


「ことり」
祥太郎君の、低くて男らしい声が、鼓膜を直に震わせる。
高橋先生とは違う、少し乱暴な抱きしめ方に、体はさらに強張っていく。
「ことりが初めてだったんだ、バカにしなかったの」
「祥太郎君、離してっ……」
「漫画描いてるってこと、ことりはバカにしなかった……」
そう呟くと、私を抱きしめる力を彼はより一層強めた。
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