「先生、それは愛だと思います。」完
「じゃ、じゃあ高橋先生は……」
「そいつとは今年の春に赴任してきたとき、初めて会ったよ。すぐに分かった。忘れるはずが無かった。俺の姉をいつも泣かせてた、姉の元彼のことを」
「名前は……」
「美里だよ。荻窪美里。姉の就職を機に、俺の進学も兼ねて家族全員でこっちに越してきたんだ。高橋は知らないだろうけど」

まさか、こんな偶然があるなんて……。
高橋先生が唯一気にしている過去の女性、美里さんが、この街にいる。そしてその人の弟は、祥太郎君で、祥太郎君は最初から高橋先生のことを知っていた。
色んな情報が錯綜して、私の思考は完全に停止してしまった。

「ことり、知ってるだろうけど、あいつとの恋愛にゴールは無いよ」
祥太郎君の言葉は、真っ直ぐで嘘が無い。
決して高橋先生のことを悪く言って、自分の株を上げようとしているわけでは無い。
だって彼は、過去の高橋先生を知っている。

「俺は、ことりが泣いているところを見たくない。姉のような思いをさせたくない。……ことりが、好きだ」

祥太郎君は、好きだ、のところだけ、僅かに声を震わせた。
好きだ、という言葉だけが切り取られて、頭の中に響いた。

「俺は今、真実しか言ってない。思いつきで言ったり、勢いで言ったり、そんなことは一切ない。ちゃんと考えて、全部言葉にしてる」
彼は、再び真剣な瞳で私を見つめて、頬を手で優しく撫でた。それから、より一層重みのある声で私に念押しした。
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