「先生、それは愛だと思います。」完
鴫ちゃんは、呆れたような口ぶりでそう言い捨てた。
そっか……あの日以来もう会っていないけど、心美ちゃんは今どんな気持ちでいるんだろう。
でももし今会ったとしても、彼女にかける言葉が見つからない。謝るのも、なんだか違う気がするから。
一瞬震えたスマホを開くと、祥太郎君からLINEが届いていた。
どれだけ勉強に没頭しても、どれだけ時間が経っても、放置した問題は勝手には解決してくれない。
参考書を開いている時も、心のどこかでモヤモヤした何かが潜んでいる。
でも、それでも、今は、勉強をしなくちゃならない。
「……突然来てごめんね、御馳走様」
「えっ、もう帰っちゃうんですか」
「ありがとう、また今度来るね」
「……あまり、無理しすぎないでくださいね」
不安そうな鴫ちゃんと後輩たちに笑顔を返して、私は部室を後にした。
すると、ちょうど図書館の方角から歩いてきた心美ちゃんと遭遇した。
どちらが先に気付いたとかではなく、本当にお互い同時に相手の存在を確認した。
「……ちゃんと、別れてくれたんですか?」
「……ううん、別れてないよ」
真っ直ぐ目を見て首を横に振ると、彼女は冷たい瞳のまま私を見つめた。
「まさか本当に愛されてるとでも思ってるんですか?」
先生のことを知っている人は、こんな風に口をそろえて〝本当に愛されているのか〟を確認してくるんだろう。そんなわけないっていう前提で。祥太郎君だってそうだった。
私だってそんなことは分からない。だけど、あの時の先生の震えた声を嘘だと思うのは、あまりにも辛すぎるから。
返す言葉に困って黙っていると、心美ちゃんは私の方へ近づいてきた。