「先生、それは愛だと思います。」完
「最終的に傷つくのは、絶対文月先輩だけですよ」
……駄目だ、睡眠不足でふらふらして、上手く頭が回らない。
心美ちゃんの言葉が心と頭にズキズキと響いて、具合が悪くなってきた。
「誠君があなたを好きになるはずないですから」
それだけ言い捨てて、心美ちゃんは階段を下って行った。
私は、額に拳を当てて、自分の波立った気持ちをなんとか静めようと、人気のない廊下の隅で深呼吸をした。
ちゃんと考えなきゃ。分かってる。
もっと勉強しなきゃ。分かってる。
何度も何度も自分にそう言い聞かせれば言い聞かせるほど、モヤモヤした黒い雲が胸の中に広がっていって、苦しくなる。
その時、鞄の中のスマホが震えた。
振動が長かったので、バッグから取り出すと、メールではなく電話だった。相手はなんと、高橋先生だった。
「……もしもし」
恐る恐る電話に出ると、先生は少し焦った様子で問いかけてきた。
『文ちゃん、さっきなんか心美から〝文月先輩にまた忠告しといたから〟ってメール来たんだけど、何か言われた?』
「……言われてません、何も」
『本当に?』
……駄目だ、タイミングが悪かった。
どうしてこんなにいらいらモヤモヤしている時に限って、電話が来ちゃったんだろ。
私は頭を片手で押さえながら、先生の声に耳を傾けた。
だけど、全ての問題をひとりで抱えるには、もうとっくに限界だった。
気づいたら私は、とんでもないことを口にしてしまった。