「先生、それは愛だと思います。」完
……あ、こんなに自然に笑えたの、いつぶりだろう。
ここ最近ずっと心が休まらなくて、眉間に皺が寄っていた気がする。
久々に笑ったという事実に驚いて、私は少し固まってしまった。
「……文ちゃんが今日電話で怒ってたの、実は少し嬉しかった」
「ど、どういうことですか……?」
シャーペンを長い指でくるくるとまわして、突然先生が話し始めた。
「あー、この子、こんな風に俺の前で怒るんだって、知れたから」
「え……」
「感情剥き出しの文ちゃん、中々良かったよ」
僅かに口端を釣り上げながら、先生は少し嬉しそうにそう語る。
私は、どうして先生が少し嬉しそうなのか全く理解することが出来なくて、ただただ首を傾げた。
「……心美のことは、ちゃんと俺から説明しておくよ」
「ありがとうございます……」
「じゃ、本気でスパルタ勉強始めるか」
先生は右手の拳を左手で包み込んで、よし、と気合を入れた。
宣言通り、先生は本当にスパルタで勉強を教えてくれた。
仕事終わりで、まだスーツ姿にも関わらず、本気で勉強を教えてくれた。
どんなに下らない質問にも、どんなに細かい疑問にも、懇切丁寧に答えてくれた。
仕事終わりで疲れているはずなのに。
私のことを思って時間を削ってくれていることに感動して、私は終始頭が上がらなかった。