「先生、それは愛だと思います。」完

「……話って、文月先輩のこと?」
白いベッドに座った心美は、少し怖気づいたように問いかけてきた。
俺は床に胡坐を掻いたまま、暫し黙って心美の表情を見ている。心美は沈黙に弱いことを知っているからだ。
「……私、何も悪いこといってないよ。むしろあの人のためになること言ってあげたと思ってる」
心美は少し強気な口調で、でも目を逸らしてそう言い放ったので、俺は落ち着いた声で問いかけた。

「なんて言ったんだ」
「……誠君があなたを好きになるわけない。最終的に傷つくのは文月先輩ですよって、言った」
「……文月と二人であったことがあるのか?」
「あるよ。でもあっちから呼んだんだからね、ファミレスに」

心美は苛立った様子でそうつけ加えた。
初めて知る事実に、もしかしたら俺が知らないところで文ちゃんはもっと苦しい想いをしていたのではないか、という考えが浮かんだ。
文ちゃんは、そんなこと前回まで一度も口には出さなかったけれど。
暫く黙っていると、心美はベッドから降りて、俺の横にすとんと座り、真剣な表情で問いかけてきた。
「ねぇ、あの人と付き合ってるの?」
「……ああ」
あまりに俺があっさりと認めたので、心美は少し拍子抜けした様子だった。
「本気で好きなの?」
問い詰める様に心美が更に迫ってきたが、俺は眉一つ動かさずに、同じように首を縦に振った。

「結婚する気もないのに?」
「……彼女は学生だ。別にそんな先のことまで考えてないだろ」
「なんでそれを誠君が決めるの。そんな気持ちで付き合って、もし何年も続いちゃって、あの人が本気になっちゃったらどうすんの? 可哀想じゃん!」
心美が分かりやすく感情的になったので、俺は少し目を見開き茫然としてしまった。
心美は真剣な顔のまま、ぼそっと続けて呟いた。
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