「先生、それは愛だと思います。」完

「あの人、多分、そういう付き合い方しちゃいけない人だと思う……割り切れない人だよ……」
呟かれた言葉が、ナイフの様に尖って胸に刺さった。

「例え今だけ本気で好きになったとしても、誠君は結局本気になり過ぎて縛っちゃうことが怖くて、自分から手離すじゃん！」
心美は顔を真っ赤にして、俺の胸を一度強く手で叩いた。その顔を見て、心美は本気で文ちゃんのことを思って暴言を吐いたのだと、やっとわかった。
「結婚どうの以前に、誠君は好きな人をちゃんと縛っておける勇気が無い人じゃない。それはもう、美里さんの時、十分思い知ったんじゃないの……」
「美里は今関係ないだろ」
「ねぇ、〝好き〟って気持ちを伝えた時点で、それもある種の鎖なの。皆が皆結婚までは考えていなくとも、その人の未来に責任を持って付き合ってる。幸せにできるかどうか不安でも、それでもちゃんと覚悟を決めてるの」

心美は、訴えかけるような瞳で俺の服を掴んで揺らした。
「誠君は、あの子の未来に責任を持てる？ 自分の未来をあの子に託せる？ あの子にもし好きな人が出来たら別れようとか、そんな無責任な逃げ道を用意して、誠君はまた人を傷つけるの……？ 言っとくけど、既に終わりを用意した恋なんて、死ぬほど残酷だわ」
心美の言葉は、ガンガン響くほど頭を打ち鳴らし、俺が今まで開けたくなかった重い扉を、容赦なく開いてしまった。

『あなたは、無関心で、無責任な人だわ……』

最も思い出したくなかった扉が開き、あの時の彼女の悲しそうな顔と声が頭に浮かんだ。
心美の言葉は、彼女の言葉は、とんでもなく真っ直ぐで正しいから、自分の歪みがエグいほど浮き彫りになる。