「先生、それは愛だと思います。」完
文ちゃんが好きだ。これは事実だ。
彼女にはいつも笑っていてほしいと思うし、辛い時は一番そばにいてほしいと思う。
でもこの気持ちは、伝えてしまう方が残酷だったのだろうか。
俺は付き合う前に、〝文ちゃんに好きな人が出来たらすぐに別れる〟ことを提示した。
それは、相手を思った行動のように見えて、実はただの逃げ道だった。
終わりが用意されている方が、見えない未来を約束するより、よっぽど気楽だからだ。
あの条件を用意したのは、あの時既に文ちゃんに本気になってしまう予感がしていたからだ。
だから、先に終わりを用意した。だって怖かった。本気で愛した人の未来を約束することは、とても俺には背負いきれなかった。
俺の〝好き〟がいつしか呪いとなって、彼女を縛り付けてしまったらどうしよう。
泣いている母親の姿がまぶたに浮かんで、怖くて震えが止まらなかった。
「ねぇ、誠君はあの人とどうなりたいの……?」
心美が、顔面蒼白となっている俺の手を握って、懇願するように瞳を見つめてきた。
「お願いだから、別れてあげて。私と誠君は、人を本気で愛しちゃいけない人なんだよ。だから、二人でずっと一緒に、傷つかない、傷つけない世界にいようよ……」
――俺は文ちゃんと、どうなりたかった?
何を望んで、あんな風に想いを伝えた?
「私はもう、誠君に、誰のことも傷つけて欲しくないよ……」