「先生、それは愛だと思います。」完


* * *


はっきりとした答えが出ないまま月日が経ち、いよいよセンター試験一ケ月前となってしまった。
推薦に落ちてしまった文ちゃんは、益々受験に本腰を入れ、死ぬ気で勉強をしている。
時折、分からない所があると電話やメールがくるので、俺は家庭教師の様に文ちゃんに勉強を教えた。
この時期になると、受験が終わった生徒・終わってない生徒が入り混じり、とてもナイーブな環境になる。
ずっと張り詰めた空気が三年生の棟に流れていて、文ちゃんもここの生徒と同じようにさすがにピリついているようだった。

文ちゃんと話し合いをしたかったが、とてもそんな空気じゃないまま月日が流れてしまったのだ。

「高橋せんせ、提出に来ました」
放課後、センター試験を受ける生徒の情報を改めて整理していると、後ろから高い声が聞こえた。
もちろんここは職員室であり、生徒が気軽に立ち寄れる場所ではない。
楠は、クラス委員に任せていたはずの課題ノートを抱えて、にっこりとほほ笑んでいた。
「あと、進路のことで相談があるんですけど……」
こんなに教師の目が多い職員室で彼女を邪険にするわけにもいかず、俺はしぶしぶ席を立った。
「ここじゃあれなんで、裏庭でもいいですか? 高橋先生」

全く人気のない裏庭まで連れてこられたが、彼女は全く深刻そうじゃない様子で、校舎の壁にもたれかかった。
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