「先生、それは愛だと思います。」完

「先生、私B大のAO受かったんです、実は」
彼女は、相変わらず猫のように丸くて大きい少し釣り目の瞳を俺に向けて、微笑んだ。
「それを一番に先生に伝えたくて、呼んじゃいました」
「おめでとう、頑張ったな」
私情は抜きにして、俺は教師として素直に受験合格を祝福した。しかし、彼女の言いたいことはそれだけじゃないような気がしていた。
くるくると綺麗に巻いた髪を両耳の舌で結っている彼女は、自分の毛先を指で弄んで、俺の表情を見つめている。
「……先生、この間は少し言いすぎちゃって、ごめんなさい」
彼女の言っている〝この間〟とは、コンビニで偶然出くわした日のことだろう。

〝先生って、ずっと一人で生きていきたいの?〟

真っ直ぐ俺の瞳を見つめて、試すように問いかけてきた彼女。
あの、心の奥まで見透かそうとする瞳が、今も鮮明に脳に焼き付いている。
この子は一体、俺の何を知っている?

「それと、私、まだ周りには言って無かったんですけど、親が再婚するんです」
本題はこっちだったのだろうか?
少し驚き、一瞬言葉に詰まったが、すぐに彼女は言葉を続けたので、反応する余地が無かった。
「同い年の男の子が、新しい父の連れ子にいて、しかも偶然同じ高校で、びっくりしたんですけどね」
同じ高校に……?
どこか他人事のように話す彼女を見て、俺は少し恐ろしい気持ちで背筋がぞっとしてしまった。
「でもね、もっと驚いたことがあるんです。連れ子は実は二人いて、もう一人は社会人の女性なんです」
「……少し年が離れてるんだな」
「……荻久保美里さんって、言うんですよ。その姉となる人は」

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