「先生、それは愛だと思います。」完

だからあんなに無神経な言葉で、美里を傷つけた。
美里だけじゃない。もらうばかりで何も返さない恋愛を、平気な顔でしてきた。

『まさか誠は、誰のことも傷つけていないと思ってるの……?』

……気づかないうちに、俺は沢山の人を傷つけてきたんだろう。それを美里はずっとそばで見続けて、指摘をしても、俺は聞いてもくれなかったんだろう。
無関心でいれば、人と関わらなければ、誰も気づつけることは無いと思っていた、愚かなあの時の自分を、美里はきっと憎んでいる。

「先生は、変わらなくていいよ」
雨で濡れた俺の手を、楠がそっと握った。
「だって私、そのままの、面倒くさい先生が好きだもの」
ぎゅっと指先に力が籠り、いつも仮面のような笑顔を貼り付けた楠の顔に、力が入っていた。

「人は簡単には変われないもの。変われない部分も愛してくれる人と一緒にいたほうが、楽だよ」
人は簡単には変われない……。そんなことは分かっている。でも、だとしたら俺は、高校生だったあの時から、一歩も成長できていないのか……?
そうしたら、文ちゃんに美里と同じ思いをさせてしまうのではー……

「……因みにね、私のきょうだいになる、祥太郎君は、文ちゃんのことが好きなんだって。姉を傷つけた人が先生だと知って、そして文月さんが好きな人があなただと知って、今、相当メラメラしてるよ」
「……はは、どんな偶然だよ」
どんな因果応報だよ、それは。思わず笑いたくなってしまうほどの偶然に、俺は一瞬全てを放棄したくなった。
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