「先生、それは愛だと思います。」完
傷つけたくない 後半 *高橋side
〝きっとその時先生は後悔するんだよ、あの子の取り戻せない時間を思って〟。
楠の言葉は、文ちゃんに対する気持ちの整理がまだついていない俺にとって、まさにとどめをさすような言葉ばかりだった。
後悔は、いつか必ずするだろう。その話は、ちゃんとしなくてはならない。
いつか文ちゃんが高校時代の青春を思い出した時に、苦しい思いはさせたくない。
ちゃんと文ちゃんのことが好きだけど、そして文ちゃんも俺のことが本当に好きなんだろうけど、好きと言う気持ちだけで行動したらダメなんだってことを、俺がちゃんと教えなくちゃならない。
俺はとにかく文ちゃんを傷つけたくない。それだけなんだ。
もう美里のような思いを、誰にもさせたくないんだ。
『今日家に行ってもいいですか? 赤本の解説をお願いしたいです』。
文ちゃんからメッセージが届いたのは、丁度終業時刻だった。
今日は何もすることがなかったから、そのまま直帰しようと考えていたところだった。
俺はすぐに、「了解」という文字が描かれた看板を持った熊のスタンプを送った。
すると、『着替えてから行きますね。予備校終わりなので、二十時ごろです』と返ってきた。
「終わった頃に、近くまで迎えに行くよ」、と返信しようとしたが、わざわざ言うことでもないか、と思い、スマホをポケットにしまった。
文ちゃんはいつも俺のメッセージは塩対応だなんだと騒ぐけれど、どうせこれから会うのだしいいじゃないかと思ってしまう。まめにメッセージを返している世の男性を心から尊敬する。
「今日、ちゃんと話すか……」