「先生、それは愛だと思います。」完
……それは、青葉学園の制服を着た、美里の弟――祥太郎君だった。
文ちゃんは俺の存在に全く気付かずに、祥太郎君と会話をしているが、俺は楠に言われたことを思い出していた。
『文月さんの好きな人があなただと知って、今、相当メラメラしてるよ』
「祥太郎君っ、いい加減バカなこと言うの本当やめて」
「うるせーお前よりは頭良いわ」
「そういうんじゃなくてっ、ていうかさりげなく手繋ごうとしないでくれません!?」
「お前なんでこんな手ちっさいの? 脳みその大きさと比例してんの?」
「マークシート本番でずれればいいのに……。もう、離してー!」
ふざけあっている二人を見て、俺は怒りより先に悟ってしまった。
本来なら、文ちゃんはああいう恋をするべきなのだ。
ああやって、同い年で悪口を言い合えるような、対等な関係の男子高校生と、健全な恋をするべきなのだ。
「離さねーよ、だって俺がお前にアピれる時間、この帰りの時間だけだもん」
ああやって分かりやすく、自分の感情を伝えてくれる人と付き合った方が、きっと心も安定していられる。
『この人を好きになると、苦しい想いをするから、やめておいたほうがいい』。
『変われない部分も愛してくれる人と一緒にいたほうが、楽だよ』。
そうだよな、俺もそう思うよ。
俺が文ちゃんの親だったなら、俺みたいな男、断固拒否するね。
分かるよ、俺みたいな面倒な男に好かれて、本当文ちゃんがかわいそうだ。