「先生、それは愛だと思います。」完
母はのんびり屋な私と違って、ハキハキしていて仕事が出来る。家事はからっきしだけど、野心家でひとりでも生き抜いていけそうなエネルギーが常に漲っている。
元々専業主婦であることに退屈していたそうで、今やっているテレフォンアポインターの仕事が一番楽しいそうだ。
「そういえばことり、好きな人とはどうなったの?」
「突然何言うの! 私好きな人出来たなんて言ったっけ?」
「だってことり、好きな人できると編み物大量にするじゃない。いつのまにかこんなに大作のテーブルクロスまで編んでるし……ていうかすごいわねこれ、本当に売れるわよ」
母は、ピンクと黄色の毛糸で編んだテーブルクロスを見つめながら、しみじみ感心したように呟いた。
母にはなんでもお見通しというわけか……。
「も、もう好きじゃなくなったの。ちょっとイメージと違ったっていうか」
「あら、そうだったの。どういうところがダメだったの?」
「え、それは……」
思わず言葉に詰まると、母は不思議そうな顔をした。
先生のどういうところがダメだったのか、ハッキリとは答えられない。だって、勝手に作り上げた〝魅力的な高橋先生のイメージ〟と違ったから、なんて、幼稚な理由が本当なんだもの。
『真剣だったんだろうけど、それじゃ伝わらないよ』。
そういえば先生は、確かに私をからかったけど、なにひとつ間違ったことは言ってなかった。
駐車場で待っていた時、私の体調が悪いんじゃないかと、本気で心配してくれた。
本当は吸いたかっただろうに、私を乗せているからか、車の中では煙草を一切吸わなかった。
男子高校生に絡まれているところを助けてくれた。