「先生、それは愛だと思います。」完
「先生は……勘違いしてるよ」
途方もない時間が流れて、疲れ切ったように文ちゃんが呟いた。
「まさか傷つけたら愛が終わるって、そう思ってるんですか?」
「……知らないうちに君を傷つけていたら、怖い……」
そう答えると、文ちゃんの手が、そっと頬に触れた。けれど、優しく触れるのではなく、ぎゅっと頬を抓られた。
「じゃあ、このぐらい痛いです、今私は、先生の本当の気持ちが見えなくて、このくらい胸が痛いですっ……」
どうしてだ。君はどうしてこんなにも真っ直ぐなんだ。
俺はその真っ直ぐさが怖いんだよ。その純真さを汚してしまんじゃないかって、怖くて仕方ないんだ。
「私、言ったじゃないですかっ……傷つけてくださいって、言ったじゃないですか……っ、それくらいの覚悟は、あります」
「俺はできない、君を傷つける覚悟なんてできないっ……」
「でも私を手離したくないんでしょう? 私を縛りたいなら、先生もちゃんと覚悟決めてよ!」
覚悟……? 彼女はもしかして、想像以上に色んなことを覚悟して、俺に好意を寄せていてくれたのだろうか。
頬を抓る彼女の手が震えてる。
文ちゃんにこんな苦しそうな顔をさせているの誰だ? 不安にさせているの誰だ?
……それは、歩み寄る覚悟を持っていない、俺だ。
「か、覚悟ができないなら、もう私に触らないでっ……」
そうか、じゃあ、もう、決めたよ。
文ちゃんが、好きだよ。
もう、完敗だ。
もう遠慮なく、君を愛することにしたよ。
そう決めた瞬間、母の泣いている後ろ姿が消えて、好きと言う気持ちが、とても温かいものに思えた。
俺は、我慢できずに文ちゃんを前から抱きしめて、ソファーまで抱っこして運んだ。
文ちゃんは俺の行動にかなり驚いている様子だったが、構わずキスをした。
「……覚悟、したから、触っていい?」
全く余裕の無い擦り切れた声で問いかけると、文ちゃんは大きく瞳を震わせた。
「た、態度じゃなくて、言葉で示してくださいっ」
「……なるほど」
「態度から示すのは、先生の悪い癖ですよっ……」