「先生、それは愛だと思います。」完

文ちゃんとなら、痛みを分かち合えると思ったから。傷つけることがもしあっても、怖くないって思えたからだよ。それを一緒に乗り越えたいって、思えたからだよ。
頬を抓る文ちゃんの指が、ずっと震えていたことに気付いた瞬間、文ちゃんのことが愛おしくて仕方なくなったんだ。
あんなに恐怖心と戦いながら、自分と向き合ってくれる人を、愛おしいと思わないわけがないじゃないか。
そんな当たり前のことを、こんな不器用な俺が、どう言葉にしたらいいんだ。

「……愛しい」
……気づいたら、言葉にしていた。
こんな言葉、自分の口から自然と出る日が来るとは、夢にも思わなかった。
でも、俺のために怒ったり泣いたり笑ったりしてくれる文ちゃんを目の前にしたら、この言葉が自然と出てしまったんだ。

「……愛しいと、思う、君を。……心の底から」

真顔で、ぽつぽつと独り言を呟くように告白する俺を見て、文ちゃんはぽかんとした顔をしていた。

「……責任や後悔がどうとか関係なく、君と過ごす時間が欲しいと思う」
「た、高橋先生……?」
「くれるだけちょうだいよ、俺に」
お願い、と言って、手を握ると、文ちゃんは真顔でぽかっと俺の頭を叩いた。
でも、その拳は、とんでもなく震えていた。
「じゃあ、先生も、ちゃんとくださいよ……っ」
「うん、わかった」
「へ、返事早すぎっ……」
「……あげるよ、いくらでも」
涙を親指で拭ってから、俺は文ちゃんの頬にキスをした。
そしたら、文ちゃんは蚊の鳴くような震えた声で、呟いた。
「高橋先生、好きですっ……」
「……うん、分かってる。ちゃんと分かってるよ」
「好きです……本当に」
「……おいで、文ちゃん、キスしよう」

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