「先生、それは愛だと思います。」完
暫くして、美里さんが仕事から帰ってきた。
つっけんどんな返し方をしたが、彼女は何も気にしていないような素振りで、上着をハンガーにかけていた。
美里さんは、病院で管理栄養士として働いている。
大学での成績も優秀で、国家試験もほぼ満点で合格し、新人とは思えない知識量とコミュニケ―ション力で、会社での評価も高いらしい。
人の悪口や、会社の愚痴も言わないし、私がどんなに愛想悪く接しても、笑顔を崩すことは無い。
ロボットみたいで気持ち悪い人だ、というのが、彼女に対する印象だ。
善人ぶっちゃって、バカらしい。そんな真面目に生きてて、人生楽しいの?
その真っ直ぐな黒髪も、すっぴんに近いナチュラルメイクも、絵に描いたように清楚な服装も、気品のある話し方も、全てが癇に障って仕方がない。
あの完璧な笑顔を崩したくて、私は唯一彼女の表情を崩すことができる話題をけしかけた。
「……今日、高橋先生に話しましたよ、あなたの妹になるってこと」
高橋先生、という単語に、彼女は明らかに反応していた。
「誠君か……驚いていたでしょう?」
「絶句してましたよ」
「はは、そうだよね。まさかこんな形でまた彼の名前を聞く日が来るなんて」
「もう未練とかないんですよね?」