「先生、それは愛だと思います。」完
釘をさすように問いかけると、美里さんは一瞬間を空けたので、私は少し動揺した。
「恋愛感情での未練はないけど、あの時もう少し良いお別れの仕方が出来たらよかったのに、とは思ってるかな」
「……喧嘩別れみたいになったんですか?」
「喧嘩なんて一度もしなかったよ。喧嘩するほど、彼は私に興味が無かったもの」
力なく笑う美里さんを見て、私はなんだか少し苛立ってしまった。
どんな角度からけしかけても、この人は自分が悪いように解釈して、自虐する形で、現実的な痛みと戦わずに逃げる。
私はそういう人をズルいと思ってしまう人間だ。だから、根本的にこの人とは合わないんだと思う。
「私は美里さんと違って、優しくないし気が強いから、高橋先生に相手にされなくても吠え続けますけどね」
テレビを見ながら、目も合わせずにそう言い放つと、美里さんはまた力なく笑った。
「気が強いイコール、心が強いわけじゃないのよ。それに、麻衣ちゃんは十分優しいわ」
そのひと言が、なんだか、虫唾が走るほど嫌だった。