「先生、それは愛だと思います。」完
こんなんじゃ、先生を完全に嫌いになれない。
消化不良のこの気持ちは、一体どうすればいいんだろう。
プルルルルル。
「あ、電話」
言葉に詰まっていると、家の電話が突然鳴り響いた。
すぐに席を立ちキッチンから出て、玄関の近くにある電話をとった。
「はいもしもし、文月です」
「文ちゃん、こんばんは」
「え……、なんで番号……」
「一応君の担任だったからね」
受話器から聞こえる、柔らかい重低音の声に、思わず表情を固まらせた。電話の相手は、高橋先生だった。
「 なんですか、進路報告はちゃんと担任の山本先生にしました」
「あー、山本先生だったんだ。良かったね、ゆるいおじいちゃん先生で」
「先生がいない学校生活も、これからどんどん日常になって、受験勉強に流されて、いつしかなんとも思わなくなります」
「そうだね、俺も高校の時の先生なんて、一人くらいしか覚えてないよ」
じゃあ、先生が生徒を覚えている確率なんて、もっと低くなるじゃないですか。
私は先生をきっと一生忘れない。忘れられないけど、先生はいつか私を忘れる。何百といる生徒のデータに埋もれて、顔すら忘れ去られてしまう。