「先生、それは愛だと思います。」完

ずっとおどおどしていた文月が、きっぱりとした口調でそう言い切った。
真っ直ぐ私を見つめながら、彼女はもう一度同じ言葉を言った。

「傷ついていいんです。……だってそれは、相手が高橋先生だから、とかじゃなく、人が歩み寄るにおいて必要な道だったりしますから」
その言葉を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立って、嫌悪感と怒りで頭の中がどうにかなってしまいそうになった。
……一緒だ、こいつ、美里さんと同じ人種だ。
どうして先生はこんな偽善者ばかりを好きになるの?
理解できない。こんな中身の無い女、理解なんてしたくない。
突然私の表情から笑顔が消えると、文月は一瞬目を見開き驚いた様子だった。

「傷ついていい? じゃあ先生は? なんであなたが傷つけられる前提なの? あなたとの関係がバレたら、先生は社会的に傷つくわ」
「その責任は取れません」
「はあ? なんなのそれ、好きだったらなにしても良いと思ってるわけ? 責任も取れないのに、好きだから先生のそばにいてもいいとか、思ってるわけ?」
「……そう思っています」
「どれだけ図々しい人間なの!?」
「あなたも、好きなんですよね? 高橋先生のこと。あなたも私と同じ高校生という立場なのだから、さっきあなたが言った言葉は、あなたにもそのままお返しできます」

――私があなたと同じ立場?
笑わせないで。私はあなたとは違う。
私は先生と同じ人種だから、彼の痛みを分かることができる。私は先生と同じ痛みを共有することができる。
愛がどういうものなのか、一緒に探すことができる。私達二人でなら。
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