「先生、それは愛だと思います。」完
この女のために、走ってここまで来たのだろうか。笑える。
「しょ、祥太郎君、汗凄いよ……?」
「は? これは雨だ、雨っ」
「いや、でも息切れてるし……」
「うるせえハゲ」
……なによこれ、どんな茶番? 私が悪役でこの女がヒロイン?
奪うことしか考えていなかった私はヒロインにはなれない?
「お前いい加減にしろよ。今度勝手にこいつに接触したら……」
「バラしてやる」
「……麻衣」
「高橋先生とのこと、バラしてやるから。あんたの進路も未来も、ぐちゃぐちゃに壊してやるから」
そう言い放つと、文月は一瞬私を睨んだが、すぐに視線を床に落とした。
それから、途方もないように呟いた。
「……いいよ。好きにすればいい」
「おい文月っ」
「その場合私も許さないから。こうやって突然押しかけて、自分の感情暴力みたいに投げつけて、私の先生への想いを気持ち悪いと言って、こうやって脅迫したこと……絶対に一生許さないから」
絶対に許さないから。
そう言い終えた後、私の瞳を睨みつけた文月に、私は思わず怯んでしまった。
しかし文月は、そんな攻撃的な言葉を他人に言ってしまったショックからか、がしがしと自分の髪を掻き回した。
「ああ、もうっ!」
彼女の投げやりで乱暴な言葉が部屋に響き、一瞬肩をびくつかせてしまった。
沈痛な空気が部屋を漂い、しんと静まり返ったが、文月が力なく、殆ど吐息に近い声で言葉をこぼした。