「先生、それは愛だと思います。」完
「……文ちゃんは、もう俺に会いたくないんだ?」
先生が、少し間を開けて口火を切った。
「もう、からかわないでくださいっ……、やめてください」
「今はからかってないよ。でも、からかってると思うんなら、今から俺が言うことも全部冗談だと思ってもいい」
先生が少し冷たい口調で言い放ったので、私は少し怯んだ。
「文ちゃんに興味がある。だから告白をOKした。文ちゃんのことを恋愛の意味では好きじゃない。でも、会いたくないと言われたことや、君の進路報告をこの先聞く役目が俺にないことは、寂しく思う」
「……な、なんですか、それ……」
なんでそんな、試すようなことを言うんですか、先生。
ずるいですよ。酷いですよ。恋愛初心者の私に、こんな高度な恋愛の駆け引き、できるはずがないじゃないですか。
でも、その言葉が本当なら、正直死ぬほど嬉しい。
「買うほどじゃないけど、貰ったら嬉しいものってあるじゃない? 多分さ、お互い今そのレベルなんだと思うよ」
「なんか、凄く的確な表現な気がします、それ……。確かにそんな感じです」
感心したように言うと、先生は受話器越しに笑った。
「今、私用のスマホからかけてるから。番号登録するかしないかは、文ちゃんに任せるよ」
「また、そうやって判断を私に委ねるんですかっ」
「委ねてないよ。俺はもうとっくにOKって答えを出してる。三月から答えを投げ出してるのは、文ちゃんでしょ」
先生の鋭い言葉に、私はまた言葉を詰まらせてしまった。
「……もしこの関係を始めるなら、ひとつだけ条件をつけよう」
「条件ですか……?」
「文ちゃんに好きな人ができたら、すぐに別れる」
私に好きな人ができたら、別れる……?
それならこの関係は、先生にとって一体なんの生産性があるのだろうか。
「文ちゃんみたいな子、一回攻略してみたいんだよね」