「先生、それは愛だと思います。」完
「悪かったな、この前、うちのバカ女が」
あの事件があってから初めて予備校に行くと、祥太郎君が暗い表情で私に謝ってきた。
祥太郎君は何も悪いことをしていないのに、むしろかばってくれたのに、謝る必要なんて微塵もない。
「全然大丈夫だよ、まあちょっと驚いたけどね……」
「あいつ、バラしてないっぽいから、安心して」
「そっか、よかった」
正直そのことについては心底安心した。あんな風に強がっておきながら、内心はびくびくしていたから。
ほっとした表情でテキストを出して、先生が来るのを待っていると、祥太郎君がじっと私の顔を見つめてきた。
「ん? どうしたの」
「……ごめんな、本当に」
「え、祥太郎君はなにも悪くないから気にし」
「先生への気持ち、あんなに真剣だったのに、茶化すように告白して……ごめん。しかもこんな時期に」
真っ直ぐ私の瞳を見つめながら謝る祥太郎君に、私は思わず動揺して固まってしまった。
まさかそんな風に思ってくれたなんて……彼の予想外過ぎる言動に、どう反応していいのか分からない。
言葉に詰まっていると、祥太郎君は私の頬を親指で優しく撫でた。
「でも、俺も本気だから、受験終ったらでいいから、ちゃんと考えて、ちゃんと返事ちょうだい」
祥太郎君の、少しオレンジがかった色素の薄い瞳が、私を真っ直ぐ見つめている。