「先生、それは愛だと思います。」完
彼は、頬を撫でていた手をゆっくりと離し、私の髪を内側から撫でて、毛先までするすると指を通した。
それから、毛先を少しだけつまんで、念を押すように問いかけた。
「……わかった?」
「わ、わかりました……」
私、自分のことにいっぱいいっぱいで、祥太郎君の気持ちにちっともちゃんと向き合っていなかった。
最初は冗談だと思っていたのもあるけれど、人が想いを伝えているのに、それを流して向き合わないなんて、私はなんて失礼な人間なんだろう。
急に自分が祥太郎君にしてきた行動が酷いものに思えて、罪悪感で心が冷たくなった。

……なにが、先生に「好き」って気持ちを教えてあげたい、だ。
人の「好き」という気持ちをぞんざいにしていた人が、そんなことできるわけがない。
私ってどうして、なにか一つ大変なことがあると、すぐにいっぱいいっぱいになって、周りが見えなくなってしまうのだろう。

どうして私って、こんなに子供なんだろう。

祥太郎君は、とてもいい人だ。
最初の印象は最悪だったけれど、私が先生のことでぐじぐじしていても黙って話を聞いてくれるし、ちゃんと私の気持ちを考えて言葉を選んでくれる。
……きっと、祥太郎君と付き合っていたら、なんの弊害も無しに、学生生活を送れたのだろう。
心美ちゃんに敵対視されることも、麻衣さんに暴言を吐かれることも、私服に着替えてからこっそりデートすることも、こうやってぐらぐら不安定になることもなく。

それでも、どうして。
どうして苦しい方に、心が傾いてしまうのだろう。

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