「先生、それは愛だと思います。」完
これから歩むべき道 *高橋side
「お母さんが車に撥ねられた……」
今まで聞いたことのないくらいか細い声が、スマホの向こう側から聞こえた。
それは、ちょうど切りよく仕事を終え、学校を出ようとしている時のことだった。
学校にいるときはあまり触らないスマホを、その日はなぜかポケットに入れたままで、すぐにバイブに気付いた。
文ちゃんの名前が表示されたのを見て、俺はなぜか妙に胸騒ぎがしたんだ。
文ちゃんから電話がかかってくることなんて、そう滅多になかったから。
「事故ってこと? 今どこにいるの、病院?」
「うん、阿佐川病院ってとこに向かってるよ……」
「すぐ行く」
文ちゃんを不安がらせないように、なるべく落ち着いた声で話をしたけれど、文ちゃんの耳にはあまり俺の声がしっかり届いていないようだった。
俺は、すぐに学校を出て車を走らせ、文ちゃんのいる病院を目指したが、生憎の渋滞で通常の走行より二倍以上時間がかかってしまった。
運転している間、ずっと文ちゃんの震えた声が頭の中に残っていて、今どれだけ不安な気持ちで病院にいるのか想像すると、胸が千切れてしまいそうなほど苦しくなった。
なんとかやっと病院に着き、受付で事情を説明し急いで文ちゃんのいる手術室前に向かったが、そこには文ちゃんはいなかった。
もう手術は終わったのか……?