「先生、それは愛だと思います。」完


「あの、すみません。ここの手術って……」
俺は、通り過ぎた看護師を追いかけて、かなり焦った口調で問いかけた。
「二丁目の事故の……ですよね。先ほど手術を終えて今は病室に移動されましたよ」
「何号室ですかっ」
こんな風に初対面の人に大声を出してしまうほど、俺には余裕がなかった。
文ちゃんが一番辛く不安な思いをしている時に、そばにいてあげられなかった。
いったいどんな気持ちで、手術を待っていたのだろう。
「三〇五号室ですよ。今娘さんと一緒にいらっしゃいます」
「わかりました、ありがとうございます」
病室番号を聞き、俺はすぐに階段を駆け上がった。
電話越しの、文ちゃんのか細い声が胸をぎゅっと締め付け、どんどん余裕を奪っていく。
三〇五前にたどり着くと、俺はすぐさまドアノブに手をかけた。
しかし、そこでピタリと動きを止めた。文ちゃんのすすり泣く声と、それを宥める文ちゃんの母親の声が聞こえたからだ。

「よ、よかった……っ、お母さん、ほんとによかったっ……」
「ごめんね心配かけて。勉強は大丈夫なの?」
「なに言ってんの! そんなの平気だよ、なんでこんな時まで私の心配なんかするの」
「そんなに怒んないでよー」

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