「先生、それは愛だと思います。」完
……ごめんね、文ちゃん。
受験が終わったら、俺はきっと君に酷な別れを告げるだろう。
怒っていいよ。恨んでいいよ。殴ったっていい。
『傷ついていいんです。傷つけてください、先生……』
いいわけない。文ちゃんが傷つく姿なんて、見たくない。
君がよくたって、俺や君のお母さんが、許さない。そんなこと。
文ちゃんのお母さんには到底及ばないだろうけど、俺も俺なりに文ちゃんのことを宝物のように思っているよ。
だけど、俺じゃだめだ。
文ちゃんを幸せにするには、俺じゃだめだ。
「文ちゃん、ありがとう……」
色んな感情が巡りに巡って出てきた言葉は、たった五文字だった。
ありがとう。ありがとう、ごめんね、文ちゃん、好きだよ。
好きだよ。
本当に想っているからこそ口にできない言葉って、あるんだな。
文ちゃんの手をそっと握り返して、俺はばれない様に1粒だけ涙を流した。
そんな俺の頭の中に、数年前の冷たい言葉が流れ込んできた。
『あなたは結局、一生ひとりなんだわ』
……ひとりでいい。
今までだってそうやって生きてきた。
俺は、大丈夫。