「先生、それは愛だと思います。」完

……ごめんね、文ちゃん。
受験が終わったら、俺はきっと君に酷な別れを告げるだろう。

怒っていいよ。恨んでいいよ。殴ったっていい。

『傷ついていいんです。傷つけてください、先生……』

いいわけない。文ちゃんが傷つく姿なんて、見たくない。
君がよくたって、俺や君のお母さんが、許さない。そんなこと。

文ちゃんのお母さんには到底及ばないだろうけど、俺も俺なりに文ちゃんのことを宝物のように思っているよ。

だけど、俺じゃだめだ。
文ちゃんを幸せにするには、俺じゃだめだ。

「文ちゃん、ありがとう……」

色んな感情が巡りに巡って出てきた言葉は、たった五文字だった。
ありがとう。ありがとう、ごめんね、文ちゃん、好きだよ。

好きだよ。

本当に想っているからこそ口にできない言葉って、あるんだな。
文ちゃんの手をそっと握り返して、俺はばれない様に1粒だけ涙を流した。

そんな俺の頭の中に、数年前の冷たい言葉が流れ込んできた。

『あなたは結局、一生ひとりなんだわ』

……ひとりでいい。
今までだってそうやって生きてきた。
俺は、大丈夫。


< 178 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop