「先生、それは愛だと思います。」完

自宅から大学までかなり距離があったので、私はいま大学の寮で暮らしている。
と言っても、電車で二時間で帰れる距離ではあるので、月に二回はお母さんのいる家へ帰っている。
お母さんは寂しくないというけれど、最近とうとうペットを飼い始めた。

「とりあえずこの席座って、空くの待とうぜ」
「うん、そうしよう」

祥太郎君とは、大学に進学してからこの四年間、お互いにちょくちょく連絡を取り合っていた。
一緒に受験を戦った仲だし、仙田先生の誕生会には毎年一緒に参加している。
実は、イケメンの編入性が来るってことで、私の学科は少しざわついていたのだけれど、本人は全く気にしていない。
彼女も作らずに、留学の資金を集めるためにバイトをしまくっていたようだ。

「……ことりは、出版社だってな。教材を主に扱ってるんだっけ?」
「うん、そう。とくに理系に力をいれてるよ。たまたま高校の時に使ってた教科書の会社でさ……まさかここで働くことになるとは思いもしなかったなー」
「俺も。まさか自分が教師目指すなんて思いもしなかった。漫画家本気で目指してたし」

スーツ姿の祥太郎君は、大人っぽくて少しドキッとするけれど、笑うと幼くなるから、高校生の時の祥太郎君を思い出す。

「本当、高校生の時って、すごくエネルギーに溢れてて、怖いものなんてなかったな」

ぽつりと寂しげにそう呟くと、祥太郎君は私にでこぴんをした。
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