「先生、それは愛だと思います。」完
会う意思はない、という言葉が、重く胸にのしかかった。
祥太郎君の色素の薄いきれいな瞳が、まっすぐに私に向けられている。
お互いにその人の名前は口にしなかったけれど、言わなくたって誰の話かはわかっている。
「お前はそうやってこの先も、いまいち踏み切れないまま誰かと付き合って、結婚すんのかよ」
「そ、そんなこと……」
「あるんだよ。目がそう言ってるんだよ。俺が『教師』って単語を発するたび、ことりは目を伏せるんだ……」
祥太郎君の言葉に、私は思わず言葉を失った。
そんなつもりはなかった。でも、確かに、教師という言葉を聞くたびにあの人のことを思い出してしまって、胸がずきんと痛むのを感じていた。
その痛みは、この四年間まったく和らぐことはなかった。
「……ことり、俺はあいつが嫌いだけど、好きな人の幸せを願えない自分の方が嫌いだから、こう言ってるんだ。好きな人の好きな人をけなすのは、なんだか負けた気がするし」
祥太郎君は、真剣な瞳のまま、少し苦しそうに呟いた。
「……でも俺は、あいつよりいい教師になるよ。絶対になる。……俺が立派な教師になれた時、お前をまた迎えに行くから、その時『踏み切れてない』ままだったら困るから、ちゃんと消化しろよ」
「祥太郎君……」
「……食券、引き換えてくる」
それだけ言い残して、祥太郎君は席を離れた。
私は、祥太郎君の真剣な気持ちと、自分の中の消化しきれていない気持ちで、ぐちゃぐちゃになりながら、バッグにいつもつけてあるお守りを見つめた。
赤い布に金の花が刺繍されたお守りは、四年間肌身離さずつけていたせいで、だいぶ薄汚れてしまっている。
それをぎゅっと手の中に包み込んで、私はそっと目を閉じた。
目を閉じると、いつも浮かんでくるのは、先生とお別れした卒業式の日のことだ。