「先生、それは愛だと思います。」完

「許さないです、先生っ……」
先生のシャツに思いきりしわを作るほど、私は力強く彼を抱きしめた。
「私も、先生が幸せにならないと困ります。先生のこと守ってくれる人が現れないと、困りますっ……、私だけ願われるなんて嫌です」
「文ちゃん……」
「なんで先生は自分には人を幸せにできる力がないと思い込んでるんですかっ、私は先生といて、本当に幸せでしたっ……、私だけじゃない、生徒は皆、高橋先生が大好きなんですよっ……。」
そう言うと、先生は本当にわずかに肩を震わせた。
自分の肩に先生の涙がしみこんでいくのを感じて、私は、もうこのままずっと一生この人をこうして温めてあげたいと思った。

「……忘れようと思っても、文ちゃんのことを思い出すきっかけが、日常に転がりすぎていて、困ったよ。この四年間」
「例えばどんなですか?」
「鳥を見るだけでも思い出すし、文っていう漢字を見るだけでも思い出してた」
「はは、それ、私と同じですよ、先生……」
「……同じ?」
「私も同じだったから、わかります。教師っていう単語を聞くたびに、先生のことを思い出していました」

私は、ゆっくりと先生から離れて、先生の顔をじっと見つめた。
この四年間、会いたくて仕方なかった人が、愛しい人が、目の前にいる。
なんだかその事実にまた気が緩んでしまって、ぽろっと涙が零れ落ちた。
先生がその涙を掬って、心配そうに、愛おしそうに私の頬を撫でる。

「……先生、それって、どういうことだか、わかりますか……」
「え……」
「私のことをちょっとしたきっかけで思い出したり、私の幸せをバカみたいに願ったり、私が泣いたら、こんな風に心配そうな顔をしたり……」

わからないみたいだから、教えてあげます。
もうこの台詞を言うのは二度目ですよ。
もう、本当に今回限りですからね。
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