「先生、それは愛だと思います。」完

「まさか君がそんな純愛するタイプだったとはね。そりゃあ新人を食べないはずだ」
「どんな疑いかけてたんですか……」
「文ちゃん、おめでとう」
「編集長、その呼び方は……」

文ちゃん、と呼ばれた瞬間私も先生と同じようにげんなりとした表情をした。
まさかそこまで編集長に知られてしまっているとは……。

「これからも、変わらず頑張らせていただきますので、文月共々何卒よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」

私は先生の声と合わせて、深々と頭を下げた。
それから、いつも通りの業務に戻ろうと、後ろを振り返った。その瞬間、パーンというクラッカー音が編集室内に響いた。

「高橋さん、文月さん、おめでとうございます!」
去年入ってきたばかりの元気な新人君が、クラッカーを鳴らしてくれた。
編集室に入ったときはいつも通りだったのに、まさかこんなサプライズを用意していてくれたなんて……。
そのことに驚いている暇もなく、須藤さんがそっと歩み寄ってきて、社員の皆で買ったというプレゼントを渡してくれた。
私と先生は皆にぺこりと頭を下げて、お礼を言った。皆は温かい拍手に思わずうるっときてしまったが、私は何とか堪えた。

「いやあ本当に、付き合ってないですの一点張りだったのにね~」
「須藤さん、それに関しては本当に気まずいという感情しかないです」

先生が真顔でそう対応すると、社内には苦笑交じりの笑いが小さく起こった。
須藤さんは、入社してからもずっと私の面倒をしっかり見てくれて、いろんなことを教わったし、とても感謝している。
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