「先生、それは愛だと思います。」完
「怪しいと思ってたんだよなー、お前文月にやたら厳しいから。好きな子いじめちゃうタイプかよ」
確かに入社してからの三か月は、高橋先生が直属で教えてくれたのだが、とても厳しかったし怒鳴られたりもした。
恋愛と仕事は分けて考えなきゃいけないと分かっていても、最初はやっぱり戸惑ってしまった。
でも、大人になってから付き合い方も色々変わって、高校生の時には行けなかった飲み屋や、旅行にも行けるようになって、楽しいこともたくさん増えた。
先生のことは、名前で読んだり、今まで通り先生と呼んだり、まだまちまちだけれど、結婚したら名前で統一してくれ、と先生にはお願いされている。
この前、そういう雰囲気になったときに、つい『先生』と呼んでしまって、『なんか悪いことをしている気分になる……』と落ち込ませてしまった。
「文月はこんな気難し屋のどこがよかったんだ?」
「そうですね、確かに掴みどころはないんですけど……、なんででしょうかね……」
須藤さんの質問に煮え切らない返事をすると、先生に『おい』と軽く突っ込まれた。冗談ですよ、そんなに怒らないでください。
そんな私たちを見て、須藤さんは少し間をあけてから高橋先生の胸を突いた。
「頑張れよ、ますます」
その言葉に、先生は真剣な表情で頷いてから、噛み締めるように呟いた。
「はい。……守るものがあるって、いいですね」
先生のその言葉に、私は迂闊にもときめいてしまった。
先生の惚気ともいえる発言に冷やかしが起こったが、私と先生は逃げるように頭を下げて、編集室をあとにした。
始業前に、営業部にも軽く挨拶をしに行こうと思っていたので、私と先生は走ってエレベーターに乗り込んだ。はやく報告を終えて仕事を始めなければならない。
エレベーターに乗りながら、私と先生はとりあえず編集部での挨拶を終えたことにほっとしていた。
「結構冷やかされましたね、まさか編集長にも冷やかされるとは……」
「でもほっとしたよ。隠してるのそろそろ限界だったし」
「やっと本当の意味で堂々と一緒にいられますね……」