「先生、それは愛だと思います。」完
とんでもない言いがかりに、私はかなり動揺した。
高橋先生は一瞬私に視線をやって、すぐに心美ちゃんに戻した。
それから、呆れたような表情をして、私達を素通りして家の鍵を開けた。
「心美、父さんに怒られたくないなら帰りな」
「じゃあ誠君が帰ってきてよっ、誠君がいなくなったから、心美は家に帰りたくなくなるんだよ」
「それより高校はどうなんだ。昔みたいに、俺はもう助けてやれないからな」
「分かってるよ、そんなこと。上手くやるよ」
「門限すら守れないのに、そんなこと言っても、説得力ないな」
高橋先生の言葉に、心美ちゃんはぐっと押し黙ってしまった。
それから、何かを言いかけたけれど、それを飲み込んで、エレベーターへとゆっくり歩を進める。
「誠君は結局、一人が好きだよね」
去り際に呟かれた、心美ちゃんの冷たい一言に、先生は一瞬反応していたようだけど、視線はドアノブを見つめたままだ。
ただならぬ雰囲気に、私は身動きが取れなくなってしまい、気づいたらエレベーターは心美ちゃんを乗せて閉まった。
「ごめんね、大変だったでしょ」
苦笑を浮かべる高橋先生の言葉に、私は慌てて首を横に振る。
いや、大変だったけど……本当に本当に大変だったけど。
「おいで、お茶くらい出すよ」
「えっ、本当に言ってるんですか?」
「怖いんなら別にいいけど」
「……お邪魔します」