「先生、それは愛だと思います。」完
「心美、性格ねじ曲がってただろ。無視していいから」
とんでもない言葉に、私は思わず咳き込む。
「俺の家、家庭崩壊しててさ、そんであんな感じになっちゃったんだ」
「なんかえぐいことサラッと言いましたね……」
「心美は、あの家から逃げ出した俺が許せないんだよ」
「……許せない、というより、単に寂しいだけでは……」
「俺はズルいからね」
プシュッと缶チューハイの蓋を開けて、先生はお酒を流し込んだ。
そんな先生を見つめながら、私はさっきの心美ちゃんの捨て台詞を思い出した。
「……一人が好きなんですね」
「そう、俺、生涯独身アイドルタイプ」
「……すごく……分かります……」
「いや突っ込めよ、アイドルのあたりは突っ込んでくれよ」
「いやすごい、絶対先生その類の人ですわ……」
どことなく漂う、高橋先生の生涯独身臭に、私はかなり共感していた。
拳を額に当てて納得していると、先生は私の頭を軽く小突いた。
……家庭崩壊、なんて、先生は軽々しく言ったけど、それは本当なのかな。
でも、心美ちゃんのあの様子を見るからに、それは本当のように思える。
「結婚願望ないのは本当だよ。家が嫌いで逃げ出たことも本当」
母が大好きな私にとって、その感情は想像すら上手くできない感情だ。
戸惑った表情でグラスを見つめていると、先生は、薄く笑みを浮かべながら、
「……嫌いになった? 今ならやめてもいいよ」
と、言った。
……確かに、見たこともない先生の一面に、驚いたし戸惑った。
私が作り上げた高橋先生のイメージ像は、今はもう粉々になっている。
だけどそれは、嫌いになったとかそういうんじゃないのに。そうやって決めつけられたら、なんだか悲しい。