「先生、それは愛だと思います。」完
縁石に体育座りをして蹲っていたら、上から聞きなれた声が降ってきた。顔を上げると、そこには少し驚いた様子の高橋先生がいた。
時刻はもう十九時過ぎで、高橋先生以外の車はもう停まっていない。薄暗くなった駐車場でも、高橋先生はキラキラ輝いて見えた。
「文ちゃん何してんの、具合悪いのか? 変なもん食ったか?」
因みに文(ブン)ちゃん、というのは私の昔からのあだ名で、文鳥を飼っているらしい先生は、すぐに皆と同じように文ちゃんと呼んでくれるようになった。
先生が心配したように私の前にしゃがみ込んで、肩を揺らした。
その心配そうな顔を間近で見たら、胸がぎゅーっと絞られたように苦しくなって、先生が好きだという気持ちが、喉元までこみ上げてしまった。
ドキドキするの。先生。好きなの。私先生のことが大好きなの。
すっきりした襟足も、奥二重も、アーモンド形の黒い瞳も、くっきり浮き出たのど仏も、適当な話し方なのにちゃんと要点を押さえた授業も、付箋だらけの教案も、チョークの粉まみれの長い指も、全部が私をときめかせるの。
迷惑なのは承知だけど、自分勝手なのも承知だけど、
この恋を終わらせるために、気持ちを伝えても、いいですか。
「先生、好きです」
「え……」
「高橋先生のことが、ず、ずっと好きでした」
尋常じゃないくらい心臓がバクバクしている。
照れくさくて、気まずくて、自分のローファーのつま先を見つめた。
先生の顔を見ることが怖くて、私はずっと俯いている。