「先生、それは愛だと思います。」完

ああ、久々に、チョークを持つあの細い指が見たい。

同じ建物内にいるのに、高橋先生の授業を受けることはもう無いのだ。
そのことを今更実感してしまって、何だか少し胸がちくっとした。

そして何度でも思ってしまう。
やっぱり私は、〝先生〟である高橋先生が好きだったのだろうか、と。

 * * *

小テストだらけの授業を終えて、夜になると、少しだけ気温がひんやりとしてきた。
それなのに、私の体はまだ熱を帯びているようだった。
ユイコの言うとおり、少し微熱気味なのだろうか。
でも、授業に出られなかった時の課題は半端ない量だって聞いたし、ここで授業を休むわけにもいかない。
二泊三日で終わるわけだし、実行委員の仕事もあるし、倒れるならその後にしよう。
そう思いながら、どの味付けもなんだかいまいちな料理を食べて、今夜の唯一のレクリエーションの準備に向かった。

今日行われるイベントは、先生たちが準備した低クオリティーな肝試しだった。
事前に用意を見させてもらったが、高校の文化祭でこの程度のお化け屋敷があって入場料に二百円取られたらキレるレベルの出来だった。
庭に集合させられた生徒たちはすでに死んだ目をしていて、未来の何にも希望を持っていないような気だるさを全身から溢れさせていた。
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