「先生、それは愛だと思います。」完
「あ、あった」
数十メートル歩くと、小さな社の傍に数珠が置いてあるのを見つけた。
歩いてくるまでの途中にそれらしい仕掛けは何もなく、改めてこの企画のやる気の無さを知った。
先生は社の前にしゃがみ込んで、数珠を手首にはめた。私もそんな先生のすぐ後ろにかがんだ。
「どう、似合う?」
「え」
数珠を手首にはめた先生が、突然後ろを振り返った。
顔と顔の距離がとても近くなり、私は思わずこの間のことを思い出し固まってしまった。
先生の唇の感触が、急に鮮明に思い出され、体温が一気に上昇するのを感じた。
「……文ちゃん、あのさ、さっき思ってたんだけど」
「え、あの、先生……」
先生の大きな手が、私の頬に触れた。
冷たくてサラサラしてて、すごく気持ちいい。
でも、なんだか視界がどんどん薄らいできたような……。
全身に力が入らないし、くらくらする。
「文ちゃん、頑張りすぎだよ。風間にももっと仕事やらせろよ。今日一日中走り回ってただろ」
「え、なんでそのこと……」
「仕事割り振るのも仕事の内なんだぞ。だから熱なんか出すんだ。俺がもっとはやく気づいてやればよかったんだけど……」
「せ、先生は何も悪くな……」