「先生、それは愛だと思います。」完
過去の爪痕 *高橋side
文月ことりはいつも予想外の行動をしてくる。
それは、毎日退屈に暮らしていた俺にとって、実に刺激的なものであることは、間違いない。
「この遺伝子tに対して優性であり、メンデルの優性の法則が成り立つ遺伝である」
高校の生物の教師になって、今年で三年目になった。
初の異動は少し戸惑うこともあったが、基本的に前の高校とレベルもさして変わらないので、授業の準備はそんなに気を張らずに済んだ。
大きく変わったことと言えば、あのアニメチックな制服ではなく、紺のブレザーに赤いネクタイという、いかにも進学校な制服になったことと、校長が女性であることくらいだ。
生徒は、ずば抜けて優秀な子がいる訳でもなく、ずば抜けて悪い子がいる訳でもなく、授業中は皆落ち着いていて進行しやすい。
とんでもないヤンキー高校に飛ばされたらどうなるのかと思っていたが、実際は拍子抜けするくらい全てが平均的で平凡だった。
「高橋先生って、どうしていつもスーツなんですか? もう夏なのに、暑そう」
授業終わり、何か質問があるのかと思い身構えたら、どうでもいい質問をされた。
「来たばかりだし、朝服選ぶの面倒だからな」
「私スーツフェチなんですよね、だから嬉しいです」
「そうか、それは良かった」