「先生、それは愛だと思います。」完
したたかさで言うと、俺もだいぶ楠寄りのタイプなので、なんだか全てが分かってしまうのだ。
こういう計算でこの発言をしていて、何を期待しているか、ということが。
一方、文月ことりを動物で例えるなら、そっけない文鳥だ。
愛らしい見た目とは裏腹に、好奇心が旺盛で何をしでかすか分からない。
どこにでも飛んでいける羽を持っているから、計算なんて必要ないし、媚びることも知らない。
俺とは真逆のタイプだから、何を考えているのか全く分からない。
「高橋先生、どうしたんですかぼうっとして」
「え……、あ、すみません。昨日ちょっと寝不足で」
「ふふ、会議でうたた寝してたら起こしてあげますね」
「それはぜひよろしくお願いします」
「あは、寝る気満々じゃないですかあー」
昼食をはやく食べ終え、職員室で中間テストの問題をまとめていたはずが、気づいたら手が止まっていた。
デスクが隣の飯野先生は、俺より三つ年上の英語の教師だ。彼女はにこにこと愛想よく笑って、サラダ巻やトマトサラダなど、殆ど葉っぱの昼食を食べている。
そういえば、彼女は楠の担任だった。
「飯野先生、楠麻衣さんってどんな生徒ですか?」
「え、ハキハキしていて良い子ですよー。最近両親が離婚して名字が変わったんですけどね」
「そうですか、なるほど」
「何か問題起こしました?」
「いえ、そういうわけでは」