「先生、それは愛だと思います。」完

慌てて否定すると、飯野先生は「あー」と声を上げ、何か察した様な笑顔を浮かべた。
「ただでさえうちの高校、男性教諭少ないですからね。高橋先生があいさつした時、正直女子の目が輝いていましたよ」
「いえいえ、やめてください」
「噂ですと、前の高校でも告白ラッシュで凄かったんですって?」
「いやいや……」
頼みますよ、先生、なんて逃げるような目で苦笑いをしたら、飯野先生はくすっと笑ってそれ以上何も突っ込まなくなった。

生徒から好かれるのは正直授業もやりやすいし有り難いが、対応に困る時が殆どだ。
楠麻衣はその典型的な〝お困りパターン〟であって、今後どう接していくべきか頭を悩ませている。

『高橋先生のことが、ず、ずっと好きでした』。

異動直前の、文ちゃんの告白をふと思い出す。
好意を寄せてきたのは彼女だけでは無かったのに、どうして文ちゃんだけ……と、もし誰かに問い詰められたら、俺はなんて答えるだろう。
逃げ腰で告白してきたのが、おもしろかったから。なんてそんな理由だけだと言ったら、俺は文ちゃんに間違いなく嫌われるだろう。

さすがにそれだけではない気がするんだけど、なんだか他の理由が不透明で、はっきりとは言葉にできないんだ。
もちろん、彼女のことを恋愛対象として見ていたわけでは無いし、多くの生徒のうちの一人だ。
ただ、その生徒の中でも、お気に入りの部類である、と表現したらいいのだろうか。なんだかそれもしっくりこない。
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