「先生、それは愛だと思います。」完
どうやって追い払おうか考えあぐねていると、突然イズミがテレビを指さして声を上げた。
「えっ、ここの住所って萩山台だよね!?」
「そうだよそれより帰ってくれ」
「見てよニュース、この辺りで変質者出たらしいよ。まだこの辺うろついてるかもだって」
「そうか俺にとったらお前が変質者だけどな帰ってくれ」
「ちょっと何よそれ」
イズミは興奮しきった様子でテレビを見ているが、俺は帰ってほしくて仕方が無かったので変質者なんか今はどうでも良かった。
しかし、ふと文ちゃんのメッセージを思い出した。文ちゃんがバイト終わりにメッセージを送ったのだとしたら……そしてもし、このニュースを知らずに無防備に一人で夜道を歩いていたら……。
少しひやっとした俺は、一応メッセージを送ってみた。
『文ちゃん今どこにいるの?』
『バイト帰りですよ。住宅街の裏あたりです』
『なるほど』
なるほど、という一言に対して、はてなマークを浮かべたブサイクな猫のスタンプが返してきた。
テレビを見てみると、丁度文ちゃんが歩いている住宅街付近が映し出されていたので、思わず咽た。それからすぐにスマホをポケットにしまい、玄関に向かった。
「ちょっと俺、出るわ」
「え、何、どこ行くの!?」
「彼女のところ」
俺の一言を聞いて、イズミは狐につままれたような表情をしていた。
外は、夜とは言えむわっとして不快感のある暑さだった。
夏の夜は妙な静けさを漂わせていて、人気の少ない住宅街裏の細い道はとくに怪しい雰囲気だった。
俺は文ちゃんに電話をしながら、文ちゃんの元を目指した。
「……あ、文ちゃん今どこ?」
『え、どうしたんですか急に電話なんて』
「いや、ちょうどコンビニに用があって家出たから」