「先生、それは愛だと思います。」完

下手に変質者のことを言って怖がらせてもよくないと思ったので、変質者のことは言えなかった。
生徒が心配なのは教師として当然のことだし、彼女を心配するのもまた当然のことだけれど、俺はどっちの感情で行動しているのかいまいちよく分かっていない。
それでも足はどんどん速く動いた。

「文ちゃん、あのさ、周りよく見て歩いてね?」
『大丈夫ですよ、この辺ちゃんと街灯ありますし』
「そうだけど、もうこの時間だし……」
『どうしたんですか本当……え、きゃあ!!』
「文ちゃん!? なに、どうしたっ」


声を張り上げたが、スマホはそのまま切れてしまった。
俺はスマホを握ったまま、全速力で文ちゃんの元を目指した。
心臓はかなりバクバクしているし、不安過ぎて地面をちゃんと走っている感覚が無い。

『結局誰と付き合っても最後は必ず別れるのに、付き合うのね』。

……文ちゃんと付き合ったのは、確かにただの暇つぶしだ。
だけどもし彼女が傷ついたら、かなり責任を感じるくらいには、彼女のことを見過ごせない人だと思っている。
住宅街の裏道に走って入ると、そこには蹲っている様子の文ちゃんがいた。
俺は走って彼女の元へ駆け寄り、肩を揺すった。

「文ちゃん、大丈夫!?」
「せ、先生……」
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