「先生、それは愛だと思います。」完

予備校に通えるのであれば、ぜひ通いたい。
しかし、私の家の経済状況では、膨大な学費を払う余地などきっとない。なにより母親になんて言ったらいいのか分からない。
せめて夏期講習代だけでも、自分のバイト代で賄えたら……。

「親にとりあえず相談してみたらどうなんですか? 何も相談せずに落ちて浪人する方が困りますよ」
「ご、ごもっともです……」

心美ちゃんは、悩んでいる私に向かって鋭い言葉を浴びせてから、部室のお菓子を一つ摘まんで出ていった。


* * *

「話があるの」
箸を箸置きに置いて、真剣な言葉で口火を切ったのは、母だった。

「仲の良い職場の人の旦那さんがね、予備校の教師をやっているみたいなの。ことりそこに通ってみない?」
「えっ、予備校!?」
「家で勉強するほうが向いているんだったらそれでもいいけど……随分安くしてくれるみたいだし」
「通いたい!」

もちろん私は二つ返事で引き受けた。
こんなにいいタイミングで、こんな話が転がってくるなんて……。
目を輝かせている私を見て、母はとても嬉しそうな表情をした。
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