「先生、それは愛だと思います。」完

その予備校は、バイト先と同じ最寄駅にあるマンションの十五階だった。
自宅とは別にマンションを借りて、そこを丸々教室として使っているようだ。
全面フローリングの広い部屋に、ひょうたん形をした白くて大きいテーブルと、ホワイトボードが置いてある。
椅子はパキッとした赤のレザーチェアで、ひじ掛けもついていて座りやすいし、学校の堅い木の椅子とは全く違う。
別の部屋にはキッチンがあり、たまに生徒がそこでお昼を作ったりしているのだとか。
室内には螺旋階段があり、それを昇ると広いロフトが広がっていて、そこには沢山の教材が置いてあるらしい。
一通り仙田先生から部屋の案内を受けた私は、赤い椅子に座った。

「授業は十一時から開始するから、それまで好きに参考書を読んでいて結構だよ。私はそれまでに少し用があるので、留守を任せていいかな」
「分かりました、お気をつけて」

仙田先生は、緑のセーターが似合うなんとも紳士なおじさまだった。
丸メガネにグレーの髪が知的な印象で、笑うと目が一本の線になる。
こういう風に上品に年を取れたら素敵だ、と思わず感嘆の溜息を漏らしてしまうほどだった。
ドアが閉まり先生がいなくなると、部屋はしんと静まりかえった。
「参考書でも読もうかな……」
……参考書はロフトの上にあると聞いた。
私は、白い螺旋階段を恐る恐るのぼり、ロフトの柵に手をかけた。
四つん這いになり慎重にロフトの上を移動したのだが、ロフトに散らばっていたプリントで膝を滑らせ、黒い何かの上に覆いかぶさってしまった。

「いって……」
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