「先生、それは愛だと思います。」完

最初はゴルフバッグかと思ったが、それが喋るわけは無い。
体温を持つ黒いそれは、「いって……」と声を上げてからむくっと起き上がり私を押しのけ、体にかけていた黒いジャンパーを剥いだ。

「え……」
そこに現れたのは、端正な顔立ちをした色白の男子高校生だった。
白シャツにスカイブルーのネクタイ、太めのシルバーのネクタイピンに星マークの印字……それは、県内でもトップの成績を誇る男子校の制服だとすぐに分かった。
青年は不機嫌そうに私を睨みつけ、ワックスで整えられた髪をくしゃっとし、もう一度私を睨んだ。

「あんた誰」
「ふ、文月ことりです……今日から予備校に通うことになった生徒です……」
天井が頭上付近にあるので、四つん這いのまま私はぺこっと頭を下げたが、図らずも土下座のような形になってしまった。

彼は猫背のまま胡坐を掻いて、私を見下ろしている。
それから、形の整った薄い唇で、
「頭悪そ」
と、呟いた。
初対面からこのパターンは、つい最近も経験した気がする……。
かなりカチンときたけれど、日々心美ちゃんの暴言で耐性がついていた私は、すぐに冷静になれた。
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