「先生、それは愛だと思います。」完
「頭悪いから予備校に通ってるんですが」
「予備校はバカが来る所じゃない。勉強がある程度好きな奴が通う所だ」
「そ、そうとは限らないと思います……」
「どこ大目指してんの?」
「え、A大ですけど……」
ぼそっと呟くと、彼は目を逸らして、呆れたように息を吐いた。
「そんなとこ勉強しなくても受かんだろ。お前さー、なんか今まで相当甘やかされて生きてきた?」
は?
どうして初対面の人に、ここまで言われなくちゃならないの?
怒りを通り越して茫然としてしまい、私は表情を固まらせた。
「頼むから、授業の邪魔だけはすんなよな」
そう吐き捨てて、彼は私の横を通り過ぎ、ロフトを降りた。
甘やかされてきた、という言葉が、深く胸に突き刺さって、段々と激しい怒りに変わってきた。
まるで、「楽して生きてきたんだろ」と言われたような気がして、私の人生を舐められたような気がして、怒りを抑えられない。
私は俯いたまま、太ももに爪を立てて歯を食いしばった。
辛いことや悲しいことは等しく振り分けられているわけではないけれど、私だって辛いことがひとつもないわけでは無かった。
それをどうして、見ず知らずの人に踏みにじられなければならないのだろう。
「文月さん、講義を始めますよ」
「あ、すみません、今降ります」
いつの間にか帰ってきていた仙田先生に下から呼ばれ、私はハッとした。
下に降りたら、この人と肩を並べて勉強しなければならない……今日だけじゃなく、受験が終わるまでずっと。
そのことにかなり不安を抱いたが、母が働いたお金で通わせてもらっていることを思い、私は気持ちを切り替えた。