「先生、それは愛だと思います。」完
保育園に最後まで残っても、熱が出てすぐに病児保育士に預けられても、学校で父の日のイベントがあっても、……いじめにあっても。
私は絶対に寂しいなんて言わないって決めた。泣かないって決めた。
いつも笑顔で母を迎えてあげないと、母はまた私に謝るから。
母を待っている間、私は膝を抱えて、呪文のように繰り返していた。


お母さん、ことりは、一人でも大丈夫だよ。寂しくなんかないよ。


「教室空いてるかな」
仙田先生の講義を終えた私は、なんだか気持ちの整理がつかないまま、学校に向かってしまった。
家で一人で勉強していたら、さっきの怒りがまた燃え上がってしまう気がしたからだ。
時刻はもう十八時で、夏休みの部活動も、もう野球部しか活動していない。
錆びた門をくぐり、私は自分の教室へと向かった。
教室にはもちろん誰もいなくて、まだ少し白い夕日が差し込んでいた。
自分の席に鞄を置いて、今日仙田先生に出された課題を開いた。


参考書に並べられた数式をなんとなく指でなぞり、私は少し昔のことを思い出した。
小学校低学年の時は、母を待ってる間に字の練習をして、中学年では料理を覚え、高学年では編み物を覚えた。
今思い返すと、あの「待ち時間」は私に沢山の財産を与えてくれたけれど、やはり母を待つ時間というのは心細かった。
だから、母と会えた時は凄く甘えてしまうし、母も私にベタ甘だった。
その光景が、他の同級生にはあまり理解してもらえなかったのだろう。
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