「先生、それは愛だと思います。」完
「来週の練習試合の相談に来てたんだよ。それで、この教室にノート点検用の判子を忘れてったの思い出して……あ、あったこれこれ」
先生は教卓の奥に入っていたスタンプを取り出して、ふっと一息吹きかけた。
さっきまでバクバクと激しく鼓動を打っていた心臓が、嘘みたいに静まり始めて、手の震えも止まった。
「じゃ、勉強頑張れよ」
「あ、はい」
目的を達成した先生は、そっけない態度のまま教室を出ていこうとしたが、最後に私と目を合わせて、少し眉を顰めた。
「……なんか、顔色悪いけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫です! さようなら」
「……そ、じゃあな」
ピシャン。乾いた音を立ててドアは閉まった。
……凄いな、先生は。こんなタイミングで現れちゃうんだ。ヒーローみたいだな。
思わず、行かないでと言いかけたけれど、ギリギリでその言葉を飲み込めてよかった。これも昔からの鍛錬があってのものだ。
また広い教室に一人になった私は、心にぽっかりと穴を開けてしまった寂しさと戦った。
先生、もっと話したかった。そばにいてほしかった。
五分でも三分でもいい、先生の声をもっと聞きたかった。
そうやって言いたかった。
でも、私はもう、そういう駄々の捏ね方を、忘れてしまったよ。
きっとこれから先も、私は、『行かないで』を飲み込んで生きていくんだろう。何度も。
先生は教卓の奥に入っていたスタンプを取り出して、ふっと一息吹きかけた。
さっきまでバクバクと激しく鼓動を打っていた心臓が、嘘みたいに静まり始めて、手の震えも止まった。
「じゃ、勉強頑張れよ」
「あ、はい」
目的を達成した先生は、そっけない態度のまま教室を出ていこうとしたが、最後に私と目を合わせて、少し眉を顰めた。
「……なんか、顔色悪いけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫です! さようなら」
「……そ、じゃあな」
ピシャン。乾いた音を立ててドアは閉まった。
……凄いな、先生は。こんなタイミングで現れちゃうんだ。ヒーローみたいだな。
思わず、行かないでと言いかけたけれど、ギリギリでその言葉を飲み込めてよかった。これも昔からの鍛錬があってのものだ。
また広い教室に一人になった私は、心にぽっかりと穴を開けてしまった寂しさと戦った。
先生、もっと話したかった。そばにいてほしかった。
五分でも三分でもいい、先生の声をもっと聞きたかった。
そうやって言いたかった。
でも、私はもう、そういう駄々の捏ね方を、忘れてしまったよ。
きっとこれから先も、私は、『行かないで』を飲み込んで生きていくんだろう。何度も。