「先生、それは愛だと思います。」完
芯が折れてよれよれの数字が書かれたノートが、わずかに暗くなった。
微かに人の気配を感じて、上を見上げると、視界をすぐに遮られた。
「……なんて顔してんの、文ちゃん」
先生の大きな手が目を塞いでる。私はよっぽど酷い顔をしていたのだろうか。おかしいな、さっき先生を送り出す時はちゃんと笑ったのに。
「どうして……戻ってきたんですか」
震えた声で問いかけると、先生は抑揚のない声で答える。
「そんな泣きそうな顔してんのに、行かないでーくらい、言えないのかよ」
先生の手が私の瞼から額に移動し、前髪を掻き揚げるようにして頭を撫でる。
視界が広がり、やっと先生と目が合ったけれど、私はそのことをすぐに後悔した。先生の瞳に、初めて〝情〟が宿ってしまっているのが、見えたから。
「……思ったより文ちゃんは、人の気持ちを乱すのが、得意だな」
「乱されているんですか」
「……参考書開きなよ。その解答間違ってるから、教えてやる」
「え、なんでそんな突然、……えっ、これ間違ってるんですか!?」
「間違ってるよ、バーカ」
バカという言葉を教師が使ってもいいものかとても疑問に思ったが、私は大人しくノートを開いた。
シャーペンを持つ手は、もう震えていなかった。
先生は魔法みたいにすらすらと美しい解を黒板に描いて、私はそれを恍惚として見ていた。
高橋先生との二人っきりの特別授業だなんて、きっとお金を払ってでも受けたいという子は沢山いるだろう。
少しの優越感に浸りながら、胸がいっぱいで泣きそうになるのをなんとか堪えた。
「次の問題文読んで、式書くから」
微かに人の気配を感じて、上を見上げると、視界をすぐに遮られた。
「……なんて顔してんの、文ちゃん」
先生の大きな手が目を塞いでる。私はよっぽど酷い顔をしていたのだろうか。おかしいな、さっき先生を送り出す時はちゃんと笑ったのに。
「どうして……戻ってきたんですか」
震えた声で問いかけると、先生は抑揚のない声で答える。
「そんな泣きそうな顔してんのに、行かないでーくらい、言えないのかよ」
先生の手が私の瞼から額に移動し、前髪を掻き揚げるようにして頭を撫でる。
視界が広がり、やっと先生と目が合ったけれど、私はそのことをすぐに後悔した。先生の瞳に、初めて〝情〟が宿ってしまっているのが、見えたから。
「……思ったより文ちゃんは、人の気持ちを乱すのが、得意だな」
「乱されているんですか」
「……参考書開きなよ。その解答間違ってるから、教えてやる」
「え、なんでそんな突然、……えっ、これ間違ってるんですか!?」
「間違ってるよ、バーカ」
バカという言葉を教師が使ってもいいものかとても疑問に思ったが、私は大人しくノートを開いた。
シャーペンを持つ手は、もう震えていなかった。
先生は魔法みたいにすらすらと美しい解を黒板に描いて、私はそれを恍惚として見ていた。
高橋先生との二人っきりの特別授業だなんて、きっとお金を払ってでも受けたいという子は沢山いるだろう。
少しの優越感に浸りながら、胸がいっぱいで泣きそうになるのをなんとか堪えた。
「次の問題文読んで、式書くから」