「先生、それは愛だと思います。」完

……先生、先生は、何も聞かないのですね。
私が行かないでと言わなくても、戻って来てくれるのですね。
今、授業をしてくれているのは、誰かに見られても疑われずに、私といる時間を増やすためなのですね。

高橋先生、そうなんでしょう。

「だからここはこの解になるわけで、文ちゃんはここで間違ったわけ。恐らくここを勘違いして……」

……私、今はもう先生に告白したこと、後悔してなんかないよ。
最初は少しイメージと違う先生に戸惑ったけど、今は違う意味で……もっと深いところで先生のことを好きになってしまいそうだよ。
私に好きな人が出来たら別れるなんて先生は言ったけれど、できなかったらどうするんですか? このまま付き合ってくれるんですか?

私の恋は、実っているはずなのに、付き合っているはずなのに、どうしてこんなにどこか不毛なのでしょうか。

「……分かった? 文ちゃん」
「先生、ありがとうございます……」
ノートを見つめたまま、小さな声でお礼を言った。先生は何も反応を示さない。
「……何があったとか、聞かないんですね」
「聞かないよ、面倒くさそうだもん」
「きょ、教師として信じられない発言ですね……」
「……どっちにしろ、俺ができることは、勉強を教えることだけだし」
高橋先生は、教卓の上でチョークを眺めながら、落ち着いた声で話した。

「志望する大学に合格して、新しい生活が始まっても、今日起きた悲しい出来事は、拭い去ることはできないの?」
思ってもいない質問に、私は思わず拍子抜けして間抜けな顔をしてしまった。
高橋先生はいつも、斜め上の質問をしてくる。
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